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接着剤事業を通じて描くモノづくり。技術に精通した商社が目指す未来とは

目次

精密プラスチック成形を核とした「モノづくりの機能」と、高機能生産材を核とした「商事機能」の2つの機能を国内外に有している日邦産業。富士通クオリティ・ラボ株式会社(現、ユーロフィンFQL株式会社)から譲渡された接着剤事業を育て、メーカーとしての力も伸ばしています。
今回は接着剤事業責任者の大西と富士通グループから移籍した接着剤技術責任者の伊達に、接着剤事業の生い立ちや開発秘話、今後の展開について聞きました。

メーカー機能を有した技術商社としてお客様に「異色ある価値」を提供

――日邦産業がメーカー機能と商社機能を併せ持つことにはどのような意義があるのでしょうか?

商事本部 執行役副本部長 兼 機能材料部 部長 大西敬三

大西:商社というと「右から左にモノを動かす」存在で、与信管理や物流といった機能を担うものだと一般的には認識されがちです。しかし、それだけでは企業としての価値を高められません。単純に右から左にモノを動かすのではなく、扱う化学材料や半導体材料について技術的に深く理解することが必須です。

「この商品はA社の材料です」ではなく「当社の材料です」と紹介できるようになると、お会いいただける方が変わってきます。具体的には、川上の研究部門や事業を最初にスタートする部門に入りやすくなるのです。

「商社の担当者が来ても声はかけないけど、メーカーの担当者が来ると声をかけてくれる」ということも実際にあります。単純にカタログを並べて説明する人と、材料の特性を深く理解して語れる人のどちらが信頼されるのかは明白です。メーカー機能を社内に有し、メーカー視点でお話ができることは、技術商社としてお客様により「異色ある価値」を提供するための大きな武器になると考えています。

――富士通グループから日邦産業に入社されて感じたことはありますか?



伊達:日邦産業は組織の横の連携について本当に真摯に取り組んでいます。社員の意見を大切にし、チャレンジすることに対して大らかな文化があります。社員の「やりたい」という意見に「やってみましょう」と応える文化は、技術者にとって非常に魅力的な環境です。

商事本部 機能材料部 担当部長 伊達仁昭

富士通グループから日邦産業へ-接着剤の開発背景と日邦産業への継承

――富士通グループが接着剤事業をやっていたのは意外でした。富士通グループでの開発背景と、なぜそれを日邦産業が継承したのか教えてください。

伊達:多くの人が「富士通グループが接着剤?」と驚かれます。やはり富士通グループというとエレクトロニクスの会社というイメージが強いですからね。実は富士通グループの研究所では、富士通グループ製品のあらゆる実装用途で使用する高付加価値・高機能材料を研究開発しています。

研究所で育まれた技術は非常に高度なもので、実際に富士通グループの製品に使われていました。しかし2020年頃に「ものづくり完全撤退」を決定し、IT企業へと舵を切る中で接着剤事業は不要と判断されたのです。とはいえ、長年培ってきた技術を捨ててしまうのはもったいないということで、事業譲渡先を探すことになりました。

富士通グループで接着剤事業を担当していた私は、事業継続のために商社活用を検討していました。しかし、実際に営業してみるとなかなかうまくいきません。いくつかの商社とお話をさせていただきましたが、その中でも日邦産業は一番相性がよかった。なぜかというと、日邦産業は「技術を理解できる商社」だったからです。そこで私は、日邦産業に接着剤事業を譲渡してはどうかと提案したのです。

大西:当社としても事業譲渡をチャンスと捉えました。商社としての機能を拡張する上で、樹脂材料のメーカー機能を持てる機会はそう多くないと考えたからです。

実は社内では、商事本部としてエレクトロニクス分野、特にパワーデバイスや実装分野に注力する中で、この接着剤事業を通じてメーカー機能を持つことで業界に深く入り込むことができると共に、化学系製品を取り扱う商社である当社のメーカー機能拡充の大きな起爆剤になると考えていました。

――日邦産業に引き継がれたのちに、得られた成果を教えてください。

伊達:富士通グループ時代から持っていた技術の種が、日邦産業に移って花開き、実を結ぶことができました。富士通グループ時代には、まだぼんやりとした技術構想があるだけでしたが、日邦産業のマーケティング戦略と融合することで、市場ニーズを捉えた実用的な製品として完成させることができたのです。

例えば、従来から強みとしていた低温・短時間の硬化技術を突き詰めて、「f・Stick」の新たなラインナップを作りあげることができました。また、通常は硬いエポキシ材料をフレキシブル化することにも成功しました。これにより応力緩和ができるので、屈曲部分にも適用できるなど用途が大きく広がりました。

日邦産業ならではの価値提供とは。材料技術と顧客対応の4つの強み

――日邦産業の強みを教えてください。

伊達:当社の強みは大きく4つあります。材料技術で2つ、お客様との取り組み方で2つです。

まず材料技術の1つ目は、低温短時間で固まり、かつ高寿命であることです。具体的には、当社の代表的な製品である「f・Stick」は50℃でも20分で硬化します。現状では50℃で固まる接着剤はほとんどありません。80℃でも30分程度かかるものが多い中、「f・Stick」は80℃ならわずか2分で硬化します。しかも、低温で固まるため応力が大幅に減少し、製品寿命が長くなります。

材料技術の2つ目の強みは、バランス設計技術です。接着剤には必ずトレードオフが生じます。硬化が速いと寿命が短くなる、強度を上げると柔軟性が失われるなど、相反する要求を同時に満たすのが非常に難しい。しかし当社は、富士通グループ時代に実装を意識して開発をしてきた経験から、こうしたトレードオフを巧みに調整する技術を持っています。柔らかさと強度、密着性のバランスでは、業界のトップ集団にいると自負しています。

お客様との取り組み方における強みの1つ目は、実装の知見を持った材料メーカーであることです。私たちはいわゆる「実装畑」で育ってきました。一般的な材料メーカーは材料のことしか分かりませんが、当社は「実装目線から見た材料、材料目線から見た実装」という両面からアプローチできます。例えば、お客様から「この材料をこう変えてほしい」という要望があっても、「そうすると実装プロセスでこんな問題が起きますよ」とアドバイスできるのです。

お客様との取り組み方における強みの2つ目は、実装業界における豊富な人脈とそれを活かした開発体制の構築力があることです。実装学会の理事や支部長を務めた経験から築き上げた人的ネットワークを活用し、材料開発だけでなく、プロセス装置や実装装置まで含めた総合的な体制の提供が可能です。

材料の硬さ(伸び率)、粘度、密着強度のイメージ

f・Stick

大西:実は最近、これら4つの強みに加えてお客様から評価される点があります。それは、小ロットでの生産が可能ということです。

一般的な材料メーカーが最低注文量(MOQ)を数十キロから数百キロ、時にはトン単位で設定している中、当社は小回りの利く生産体制を持っているので、キログラム単位での供給が可能です。小型化が進んで使用される材料の量が減っている電子部品市場においては、この小ロット対応力は大きな強みになりつつあります。

――お話を聞いていて、やはり「低温・短時間での硬化」がf・Stickの大きな強みだと思いました。低温硬化技術について詳しく教えてください。

伊達:低温硬化技術には大きな価値が3つあります。

1つ目はコスト削減です。高温で硬化させる必要がないため、安価な部材が使えます。また、部品配置の設計も簡略化できるため、開発コストも削減できます。

2つ目は製品の寿命が延びることです。接着・接合した時の応力は、硬化温度と室温の差によって生じます。例えば250℃で硬化させると、25℃の室温に戻るまでの225℃分の温度差で内部応力が蓄積されます。低温硬化ではその応力が大幅に減少し、製品寿命が延びるのです。

そして3つ目が、いま最も注目すべきカーボンニュートラルへの貢献です。低温で硬化すると、製造時のエネルギー消費を大幅に削減できます。エレクトロニクスの部材を作っている業界では、カーボンニュートラルへのシフトがそこまで進んでいる印象はありませんが、必ず「低温接合」でないといけない時代がくると思っています

高機能エポキシ系接着剤「f・Stick」の詳細はこちら

接着剤が切り拓く、ものづくりの未来像

――最後に、接着剤事業の未来についてお聞かせください。

伊達:「世の中のくっつけるものは全て接着剤」という未来がいつか訪れるかもしれません。金属同士の接合も接着剤を使えば軽量化でき、コストも下がります。

もちろん課題もあります。一度固めたら取り外しにくいなど、従来の接合方法にはない課題が山積みです。しかし、こうした課題を一つひとつ解決していくことで、接着剤の適用範囲はどんどん広がっていくと思っています。

大西:当社は「接着剤」という枠組みにこだわっているわけではありません。樹脂材料をいかに世の中に提供していくかという広い視点で考えています。接着剤も、フィルムも、接着テープも、同じ樹脂材料から生まれる製品です。

また、くっつけるだけでなく剥がす技術も含め、さまざまな接合・分離のニーズに応える材料やプロセスを提供していきたいと考えています。接着剤事業はその通過点の一つであり、将来的にはより幅広い電子・実装用材料を扱う企業を目指しています。

個人的には、社員の家族が「日邦産業で働いていることを自慢できるような会社」にしたいという思いがあります。電子部品の中にあるさまざまな材料は、日邦産業で扱っているんだよと言える会社にしていきたいです。

接着剤事業の生い立ちや開発秘話、今後の展開についてお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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